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2024年07月17日
【PEOPLE】”ひとつひとつの出会いを大切に” 吉戸康平 / FLOW vintage [古着屋]
PEOPLE

MARKETや街で今気になる人に話を聞く「PEOPLE」第1回は、古着屋「FLOW vintage」店主の吉戸康平さんです。いろいろな職種を経験し学んだことや自分の軸や好きなものを大切にしてきた”これまで”と”これから”のお話を、オープンして2ヶ月のこだわりが詰まった大須のお店で聞きました。



― 今の仕事をはじめたきっかけを教えてください。
実は、高校を卒業して直ぐは工場で働いていました。大学に行くことも考えましたが、僕は5人兄弟の長男で、あまり裕福でなかったのもあり、家を出た方が実家のためかなと思い。でも、いざ働いてみると気づきもあったんです。人生のうちで仕事って多くの時間を占めているじゃないですか。僕はそっち(仕事)の時間を充実させた方が楽しいんじゃないかなって。で、どうせなら自分の好きなファッションの業界で働こうと思い、転職を決意しました。

― 18歳で早くも「自分の好きなことを仕事にしよう」と決意されたのですね。
はい。派遣会社に紹介してもらいUNITED ARROWS(以下、UA)で働いていました。ファッションの仕事はとても楽しかったです。僕のファッションにおける人格形成はUA時代にされたと思っています。UAには、”全てはお客さんのために”という社訓のようなものがあるんです。「お客様がいいと思う物を」「お客様にプラスになることを」この考え方は、今もずっと大切にしています。



― MARKETに出店の際、吉戸さんとお客さんの双方がとても楽しそうに会話しているのをよく見かけます。
UA時代も、接客後に上司から「え、友達?」と聞かれることはちょくちょくありましたね。働きはじめて半年くらいでUAから引き抜いてもらって、派遣から正社員になった最初の日、仲の良かった副店長から呼び出されて「UAで正社員にするために、派遣会社にたくさんお金払ったから頼むよ!」って(笑)

― 初日にそれは、ドキッとしますね。
びっくりしますよね(笑)でも、その人のおかげで、責任感みたいなものができて、そこから5年くらい働いていました。3年目くらいからは、売る人というよりは、バランサーとして、より責任のある立場でも動いていました。ただ、僕はずっとここで「いらっしゃいませ」を言って、商品を売り続けるのかなって、ある時疑問に思ったんです。UAでの仕事はとても楽しかったし、居心地も良かったです。でも、自分が好きではない商品を売る必要もあるし、40、50才になった時、自分がここで働いているイメージができなくて「じゃあ、好きな古着の店を自分でやってみよう」と。思いついたらすぐにやっちゃうタイプなんで、次の日、店長にやめますと伝えました。

― 決断早い!そこで古着屋をはじめたんですね。
いいえ。不動産業界に転職しました。



― え!?なぜ?不動産業界だったですか?
UAを辞め、有休消化中にいろいろと調べて、自分の好きな古着のお店をやるために今必要なのは「お金」で、短期間でお金を貯めるために自分ができることは「営業」かなと思いました。求人サイトで仕事を探していると”営業といえば、売るのが仕事だと思いますよね。うちは買うのが仕事です。珍しいです”の文言を見つけて、押し売りするより買った方がいいなとあまり深く考えず、不動産業に転職しました。でも、そこは、不動産業といっても、いわゆる「地上げ屋さん」でしたね(笑)

― ぐ、ぐ、具体的にはどのような仕事をされていたのですか?
やわらかく言うと、アパートなどの地主さんやお住まいの方と交渉し、立ち退く契約をして土地ごと購入します。そこを更地にして、ハウスメーカーなどに売るのが主な仕事でした。交渉相手は年配の方が多かったので、自然と年の離れた人と話す機会も増えましたね。

― 松坂屋のMARKETの際、お年を召されたおばさまにも楽しそうに接客している姿を見てびっくりしました。
年配の女性も想定して商品をセレクトしていましたので購入いただいた時は嬉しかったです。年配の方と話す力は不動産時代に鍛えられたと思います。



― 吉戸さんは、どんな業界でもやっていけそうですね。
不動産の仕事を始め、1年くらい経ち、お金も貯まってきたかなと思っていた頃、当時の彼女から「最近性格キツくなったよね。車に乗っていてもキレてない?」と言われ「これはまずいな・・・」と。さらに、1年間不動産業をやっていると、おしゃれにも疎くなってきたのもあり、また派遣会社に連絡し再びアパレルショップのスタッフに戻ることにしました。そのタイミングで並行して、古着の販売を「FLOW vintage」の名前ではじめました。

― ついに、夢の実現に向けた第一歩を踏み出した瞬間ですね。
まずはオンラインショップのみで販売を開始しました。初めて自分でセレクトした服が売れた時はとても嬉しかったです。ただ、売れた服がお客さんの手元に届き、手を通してもらった時に、本当に満足してもらっているのかが不安で。UA時代にも大切にしていた「全てはお客様のため」という軸があるからこそ、葛藤は多かったです。そんな時、先輩が主催するイベントに「出店しない?」と声をかけてもらいました。




お店の窓から見える公園で遊ぶ子供たちの声を聞きながら本を読むのが日課だそう。


― FLOW vintageの初出店ですか?
はい。そこで「出店、めっちゃいいじゃん!面白いじゃん!」となりました。初めましての人と「レディーファイ!」ではじまるコミュニケーションやオンラインとは違う緊張感にこれだと思い、そこから出店の鬼になりました(笑)月20日を派遣でフルタイムで働きながら、残りの10日間のうち、8日は出店、残り2日は買付けと撮影の日々。1年を通しても休みは2日ほど。名古屋でやって、大阪でやって、次は東京でやるといったような時もありましたね。

― それだけのハードスケジュール。辛くなかったですか?
全く辛くなかったです。むしろ、楽しくて「やりたい」でいっぱいでした。人と喋るのが大好きなんですよね。

― 直接コミュニケーションを取ることができるのは出店の魅力ですよね。
そうですね。うちのお客さんって「古着が好きです」っていう人よりも「おしゃれが好きです」っていう人の方が多いなってことも、お客さんとの会話の中で気づきました。実は僕自身も、古着が好きっていうよりは服が好き。服が好きっていうよりはファッションが好きなんです。その考えは、FLOW vintageの服をセレクトする時にも大事にしています。



― 吉戸さんのFLOW vintageの考える古着の定義ともいえるのでしょうか。
はい。実は僕、古着屋で働いたことがないんです。というより「秋冬で、デニムに合わせるなら、レザーやスウェットだよね」といった具合に答えの決まっている「古着」自体にあまり興味がなくて。僕は骨董品を集める人ではないし、おしゃれしたいから服が好きなんです。FLOW vintageでは、2000年代の服も多く並べています。古着屋さんの中には「2000年代のもの?古着じゃなくて中古じゃない?」と考える人もいると思います。でも僕は、それがかっこよかったら全然いいのではないかと。FLOW vintageの特徴として、90年代や2000年代初頭の服も多く並んでいます。年代に関係なく、かっこいい服が、ファッションが好きですね。


昔から好きだという80年代のブート品のラグ。自身も玄関マットとして愛用している。


― 自分の軸を、好きを、大切にされているのが伝わってきます。今の店舗を作ることになった経緯を教えてください。
フルタイムのアパレルショップでの派遣の仕事に加え、日本各地での出店が続き、毎日充実していて楽しくてしょうがなかったとはいえ、ほぼ休みのない生活が1年2ヶ月くらい続いた時に「あれ。疲れたな・・・」と(笑)そのタイミングでショップの店長から「新しいスタッフが二人入ることになった」と告げられ、派遣のスタッフとして働くのは潮時かなと退職を決意し、次のステップへ進むことにしました。



― 古着屋として独立する、お店を持つタイミングがきたということですね。
とはいうものの、お店を辞めて半年くらいは、ゆっくりしようかなと思っていました。出店とオンラインの売上げで生活するには困らなかったので、1年以内にお店を持つことを目標に少し休憩しようかなと。そのはずだったんですけど・・・。物件は当初の予定より半年早く見つかりまして(笑)

― なぜ半年も早く見つかったんですか?
僕、ずっと坊主だったんです。髪の毛が伸びてきてもセルフカットしていて。でも、ちょうど辞めたくらいのタイミングで、いつもよりも伸びていたんですよね。いいタイミングだし、久しぶりに美容院でも行こうかなと思い立って。お店を辞めたこと、自分の店を探していることを美容師さんになんとなく話したら、ハセビルの話を聞いたんです。「大須周辺に特徴的な形をしているビルが5,6棟あるよ。かっこいいから見てきたら?」って。すぐに問い合わせました。

― 再び即行動!すばらしいですね。それが今のお店ですか?
そうなんです。ちょうど1部屋だけ空きがあって。もし、あの時、髪の毛が伸びていなかったら、いつも通り自分で坊主にしていたら、この店はありませんでした。仕事を辞めてから半年後くらいにお店を始めるための用意をするはずが、辞めて1ヶ月後には物件の契約をしていました。さらに、部屋の床と壁の工事が終わったタイミングで、気づけばお店のオープンまで残り15日。本当に時間がなかったです(笑)


暗闇で光るFLOWのロゴとビジュアルがモチーフのステッカー。お店でもらえます。


― 短期間で、看板や什器、インテリア、ステッカーまで。とくにこだわった点を教えてください。
「和」の要素は絶対に入れたくて、まずは畳屋さんに連絡しました。畳は店内中央のメインテーブルで使用しています。それと「うちわ」ですね。京都まで買いに行きました(笑)

― わざわざ、京都までですか?
はい。友人に電話をして、今から京都にうちわを買いに行こうと(笑)数ある中から自分の目で見て決めたかったんです。その他の店内の雑貨や什器にもこだわっていています。限られた時間の中でじぶんの好きなものをかき集めました。





― こだわりがギュッと詰まったお店ですね。今後も吉戸さんの「好き」がどのように派生していくのか楽しみです。
僕、お酒もタバコもギャンブルも何もしないんです。服にしか、ファッションにしか興味がなくて。その分、ファッションで興味のある幅は広いです。これからも「好き」が、どんどん展開していくのかなとは思っています。そういえば、UAで働いていた時に、スタイリストを目指していた時もありました。

― スタイリストですか?
はい。UAで働いて4年目くらいに1週間くらいお休みをもらって、東京都内に修行に行きました。でも、本当にハードすぎて。集合は朝5時。解散は夜中の2時。初日から舞台俳優の山崎育三郎、山P、セカオワのスタイリング。キラキラしている世界ではあるけれど、それだけの拘束時間、もちろん修行中の身なので無給で続けるには実家暮らしでないと無理だなと。僕のスタイリストになるための修行は挫折で終わりました。でも、「スタイリングをやりたい」「スタイリストになりたい」っていう思いはずっと胸の中にあります。



― では、次の展開としてはスタイリストも視野に入れられているのですか?
実は、今、スタイリストとしての仕事もしているんです。しかも、きっかけはSOCIAL TOWER MARKETでして。

― どんなきっかけですか?詳しく教えてください!
昨年12月のSOCIAL TOWER MARKETの音楽ライブに出演していたwowdowというグループのスタイリングを担当させてもらっています。ライブ後にwowdowのメンバーの方が、FLOW vintageの出店ブースにきてくれて「この店のセレクトすごく好きです!」と。そこで初めてお会いしたんですけど、そこからwowdowさんのイベントにも呼んでもらうようになって。今では、ライブステージやDVDのジャケット写真の衣装のスタイリングも任せてもらうようになりました。

― MARKETがきっかけなんて嬉しいです!
スタイリングの仕事は今後も大切に続けていきたいなと思っています。あと、今後やりたいことですと、いつか飲食もやりたいなと思っています!

― 飲食ですか!?
僕、小学校時代、料理人になりたかったんですよね。好きなことができると追求するタイプで。出店に追われていた時もクラフトコーラにハマっていて、ずっとコーラの研究をしていました。素敵な出会いがあって、いつかカタチにできたらいいなと思います。運ゲーには強い方なんです(笑)ひとつひとつの出会いを大切に、今後の展開を楽しんでいきたいです。



― 吉戸さんの今後の運ゲーも楽しみにしてます!最後に”名古屋でよく行くお店や場所”があったら教えてください。
うーん・・・。僕、本当にあまり外に出ないんですよね(笑)でも、人生に困ったらいくところはあります。大須のspeechっていう古着屋です。20歳くらいからずっと通っていますね。初めはただのお客さんでした。でも、ここ1,2年でとても仲良くなって。ご夫婦でやられているんですけど、今では師匠のような、第二の父のような存在です。人生相談や、今の彼女と婚約しようと思った時の相談にも乗ってもらいました。お店の開店祝いにFLOW vintageの文字が記されている石をプレゼントでいただいて。本当に僕にとって大切な場所です。

FLOW vintage
愛知県名古屋市中区大須 3-5-49 ハセビル2 3F 南A号室
▶︎Instagram
※営業日は公式インスタグラムでご確認ください

Text:Hiyori Sakakibara(THE SOCIAL)
Photo:Eri Yamamoto(THE SOCIAL)

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