第17回は、今秋のSOCIAL TOWER MARKETにも出店いただく『na』オーナー仲野商店の仲野智博さんにお話を伺いました。

ー オアシスへの初出店、ありがとうございます。前回は松坂屋での出店でしたが、たくさんの方が『na』を目的に来場されすごい人気でしたね。完売しないよう仲野さん自らパンを焼き上げ、会場まで運んでいただいたのには驚きました。今回はどんなものを販売いただけますか？
まだ販売内容は具体的には決めていないのですが、焼きたてのパンを色々持っていけたらと思っているので、たくさんの人に楽しんでもらえたら嬉しいですね。





ー 仲野商店さんは、『na』の他にも『フレンチeau』『おでんやきとり大賛成』『ビストロ VOLLON』『フレンチ佳日』など、さまざまなジャンルの飲食店を運営されていますが、どのような経緯で飲食の道を志したのでしょうか？
幼少のころから本当に食べることが大好きで、ずっと食いしん坊だった気がします。母によると、僕は三人兄弟の真ん中なのですが、僕を妊娠していた時だけ“食べ悪阻（つわり）”というか、とにかく食べ物を欲していたみたいです（笑）



ー 根っからの食いしん坊だったのですね（笑）ご出身は名古屋ですか？
はい。名古屋の緑区出身で、植田にある高校に通っていました。高校2年ぐらいの時に卒業後の進路を考えるタイミングで、まわりはみんな大学への進学希望だったので僕も最初は大学に行こうかなと思っていたのですが、親と話している時に「好きなことをしたらいいんじゃない？」と言われて、“そうだ、僕は食いしん坊だった”ことを思い出して（笑）それで、高校卒業後、料理の勉強をしに大阪の専門学校に1年、その後、フランスへ1年ほど留学しました。

ー 10代で単身留学！すごいですね。その時点で何か目標はあったのですか？
30歳までにイタリアやフランス料理の自分のお店を持ちたいなと漠然と考えていました。帰国後は東京で5年ほどフランス料理やスペイン料理のお店で修行をし、25歳くらいの時に名古屋に帰ってきました。

ー なぜ名古屋に帰ってこようと思ったのですか？
ちょうど震災の年で、東京を離れる人も多くて。これからの時代は、東京だけにこだわる必要はないのかもしれないと思うようになりました。両親の体調のことも重なって、いろいろ考えるきっかけになったんです。それに、東京には本当にたくさんの人がいて、その中で自分が何者でもないような感覚というか、埋もれていくような気がして。このままでいいのかな、自分はどうなっていくんだろう、と不安になることもありました。だからまずは、自分の地盤をしっかり固めようと思って、故郷でもある名古屋に戻り、アルバイトをしながら、自分で料理教室を始めたんです。



ー え？料理教室ですか？
中学の同級生から「ちょっと料理教えてよ」と言われたのがきっかけで（笑）最初は3人くらいにおもてなしの家庭料理を僕の八事にある祖母の家で教えていたのですが、そこから徐々に輪が広がっていきました。3人が8人になり、どんどん増えていって。それで次はお店をやってみたいなと思い、物件を探し始めたんです。はじめは、東別院や堀川沿いで探していたのですが、半年ぐらい経ってもなかなかよい物件が見つからず、探すエリアを変えたら、新栄でちょっと広いけどよい物件があり、家賃は高いけど一発目だしと、仲間4人で「フレンチeau」をスタートしました。そして、その2年後には「おでんやきとり大賛成」もオープンしました。

ー フランス料理からの焼き鳥やおでん、全然違うジャンルですね。
そうですね。業態によってお客さんが違うので、真逆のことをやってみたくて。「フレンチeau」とはまた違う、二、三千円でサラリーマンが気軽に楽しめるお店をやりたいなと思ったんです。どのパターンのお店でも対応できるようになりたくて（笑）その時は、とにかく“やりたいことをやる”という気持ちが強かったですね。

ー まったく違うジャンル、業態のお店を持つのは大変ではないのですか？
むちゃくちゃ大変でしたね（笑）焼き鳥の串を刺す作業も一度も経験がなかったので、最初はYouTubeで調べながらやっていました。この時期が本当に一番しんどかったです。
「大賛成」をはじめる前は、宣伝もぜず、のんびりやれたらと思っていたのですが、ありがたいことに開店してすぐに多くのお客さんに来ていただきました。しかし、ノウハウも機材もない状態だったので、お店はまったく回らず・・・。片付けして終わるのは早朝5時、翌日朝9時にはまた仕込みや準備がはじまる、本当に過酷な生活でした。体も限界でボロボロになっていきましたが、少しずつ機材を揃えたり、メニューを減らしたりしながら、順応していきましたね。



ー 想像するだけでも、ものすごくハードですね。現在は店舗も増え、東京にもお店がありますが、どんな生活なのでしょうか？
週5で東京で、土曜日の終電で名古屋に帰って、日曜日の朝からパンを焼き、その後、名古屋のお店を回ってまた東京へ戻る、という生活を送っています。東京で新しいお店をはじめたので、立ち上げには自分も現場にしっかり立ちたいと思っていて。忙しいですが、とても楽しいですよ！

ー いまもハードそうですが、きっと楽しいからやれるのですね！お店をつくるときに大切にしていることはありますか？
お店は「作りたいもの」と「求められるもの」、そのバランスを考えて作っています。あと、いろいろとお店をやっていると、このあたりでお店を開くとどれくらいの売上が上がって、どのくらい人が来るのかという感覚が、少しずつわかってくるようになりました。家賃比率など現実的な部分を考えつつ、最後は直感です。知らない場所や土地勘がなくても、入った瞬間に“いい”と感じる物件は、その力でお店がうまくいくこともあるんですよね。物件を見た瞬間にお店のイメージが湧くかどうかが大切ですね。はじめてお店を開く方は、いい物件がなかなか回ってこないと思うので、今お店をやっている人に聞くのもオススメですよ。


今池駅から徒歩3分。錦通り沿いにある「na」テイクアウトも店内でお食事も楽しめます


拡張した店内では、美味しいランチやディナーを楽しむ方でいつも賑わってます

ー 店名の「na」も印象的ですが、お店の名前を考える際のこだわりや大事にしていることはありますか？
他と被らないようには気をつけますね。naはフランス語の「Je ne sais pas」、日本語でノットというような意味の単語です。単語の中に本当はアポストロフィーが入るんですけど、洒落臭いなと思って「na」にしました。「ナ」と一文字だから忘れないですし。まあ、でも、店名は基本的にはなんでもいいのかなと思ってます（笑）

ー 仲野さんのこれからやりたいことがあれば教えていただけますか？
来年春にもう1店舗オープンを予定していますが、その後は特に決めていません。店を増やしたいという気持ちも特になくて。たくさんのお客さんが自分のお店に来てくれて、料理やお店、音楽、雰囲気を楽しんでくれている・・・そんな情景を見るのが僕の一番の幸せなんです。自分を認めてもらえているような気持ちになれるというか、ひょっとしたら、そのためにやっているのかもしれませんね。




オープンキッチンで調理したり働くスタッフさんたちの姿が活気があって素敵です

ー なるほど。とてもよくわかります。MARKETでたくさんの人が楽しそうにしているのを見ると僕らも幸せな気分になります。それがあるから頑張れますよね。
あと、やっぱり現場が好きですね。今でも「na」のパンは自分で焼くことが多いです。ずっと料理をしてきたので、自分でお料理を作るのがやっぱり楽しいです。それに、現場が一番大切だと思っているので、そこに立てなくなるのは嫌ですね。スタッフも自主的に動いてくれるので、本当にありがたいです。初期から一緒にやっていた4人のうち2人は独立し、もう1人の女性スタッフは今も一緒に働いてくれています。スタッフたちが楽しくやってくれていたら嬉しいですね。こう振り返ってみると、お店を作るときに一番大切にしているのは、自分が“やりたい”と思うことなのかどうかかもしれません。改めて、11月のMARKETでは「na」のパンを多くの方に楽しんでいただけたら嬉しいです。





ー 最後に、名古屋でよく行くお店を教えてください。
あまり外食はしませんが、覚王山に住んでいた頃は「KAKUOZAN LARDER」によく行っていました。とても美味しいですし、店主のお二人のスタイルもすごく好きなんです。最近は行けていませんが、また行きたいですね。

na
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Text:Hiyori Sakakibara（THE SOCIAL）
Photo:Hidenobu Saji（special thanks!）