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2024年09月18日
【PEOPLE】”作らせてくれているような感覚に” うえのえみ[陶人形作家]
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MARKETや街で今気になる人に話を聞く「PEOPLE」第5回目は、陶人形作家のうえのえみさんに会いに、岐阜県の山の中にある工房まで足を運びました。うえのさんの手から生まれる、どこか不思議で心安らぐような愛らしい人形(通称:ちび人形)の誕生秘話や暮らしぶりなど、いろいろお話をうかがいました。



― 見渡す限り山と自然がいっぱいで本当に気持ちいい場所ですね〜。
ありがとうございます。数年前に購入して夫のゴローさんと息子、犬のミツロー、猫のスス、そして6頭のヤギと一緒に暮らしています。





― 大自然の中で家族と動物たちと暮らしながら創作活動されているのですね。この辺りが地元ですか?
いえ。私もゴローさんも高知県出身で土佐っ子です。いろいろなご縁でこちらに。



― 土佐っ子なんですね。どんな経緯でこちらに来られたのですか?
実家は高知の田舎で電気屋をしています。電気屋と言っても家電を売るというよりは、地域の人たちが困ったら駆けつけるみたいな仕事です。例えば、近所のおじいちゃんがテレビのリモコンの使い方がわからないと言うので、ダンボールでリモコンを作って使い方を教えるみたいな。そんな地域の人に寄り添う父の背中を見て幼少期を過ごしました。高校卒業後は地元のお菓子屋さんに就職し店長もしてました。クリスマスには売上目標を達成すべく家族総出で宣伝しまくり、大型トラックで村じゅうに私のお店のケーキが届けられたこともありました。今思い出しても笑ってしまいます。



― 村じゅうが同じクリスマスケーキを食べている様子が目に浮かびます(笑)
そのお菓子屋さんはケーキだけでなくいろいろなお菓子も売ってたりで。毎日やることだらけの多忙すぎる生活に心がモヤモヤしていきました。そのモヤモヤを何とかしたくて行き着いた答えが、絵と詩で私の心を表現することでした。そして、どうせならと路上で作品を100円とかで販売するようになったんです。酔っ払いに絡まれたりすることもありましたが、なかなか好評で楽しくて、毎週のようにやるようになりました。そしたら会社にバレて路上販売禁止令が出てしまったんです。「社員だからちょっと・・・夜は危ないからね」って。優しさですかね。

― 路上販売ってすごい。創作活動は心のモヤモヤからはじまったのですね。
その一件があった少し後に結婚し、生まれ育った高知県から岐阜県に移住することになりました。私はなんとなく独学でイラストレーターのソフトが使えたので近所の印刷会社で働くようになり、チラシなどを作ったりしていました。でも当時の印刷会社の仕事は過酷で残業も多く、またモヤモヤが。もう少し安定した仕事に就きたいと、TOTOさんに転職し品質管理の仕事をするようになりました。その仕事は自分に向いていて楽しかったのですが、数年後、またしてもモヤモヤがやってきたのです。



― 定期的にくるモヤモヤは、うえのさんに何か語りかけているようですね。
そうなんです。楽しいかったはずの仕事でさえモヤモヤが出てきてしまった時に、自分の気持ちを紐解いてみると、私は会社に属して働くのではなく、自分自身で何かをやりたいと思っているのではないかと気づいたんです。そんな頃、作家さんのもとで修行をしていたゴローさんが独立をすることになりました。私は絵を描くのが好きだったので、ゴローさんが作る食器に絵を描いてみないかと提案してもらい、夫婦で創作をはじめました。でも、ここでもモヤモヤが(笑)。結局、私は全部自分で作りたくなっちゃうんですよね・・・。「それなら、まずは陶器をつくる学校に行ってみたら?」とゴローさんから勧めてもらい、瀬戸の窯業訓練校まで電車と自転車を乗り継いで通い始めました。


とても美味しいお饅頭とお茶をいただきました。器と豆皿がかわいすぎて興奮。

― なるほど。モヤモヤが出るたびに軌道修正している感じですね。
窯業訓練校を卒業後は、修行も兼ねて陶器の会社に就職しました。そこでは、毎日1000個ほどのお皿が窯で量産されていました。ある時、窯業訓練校時代の先輩から「卒業生みんなでギャラリーを借りて個展をしないか」と誘ってもらいました。でも、私には自分の作品がないからどうしようかと。そこで、会社で大量に焼いているお皿に紛れ込ませて粘土を手で握っただけの人形もこそっと焼いてみたんです。そして、焼き上がった人形に目、鼻、口などを描き、色をつけました。


初期の頃の作品。左はたぶんゴローさんが作ったものだそう(笑)



― ついに“ちび人形”の誕生ですか!?
はい。その人形を持って個展に参加したのですが、とても人気だったので本当に嬉しくて。「私がやりたいことはこれだ!」と心に響いた感覚を今でも覚えています。振り返ると、数多くのモヤモヤを通ってきた私の着地点でした。でも、ここまでの道は、今までの経験を少しずつ応用しながらきたような気がしています。全て繋がっていますね。あの日から私の陶人形作家としての毎日が始まりました。







― いろいろな経験が”ちび人形“の誕生につながっているのですね。“ちび人形”はオンラインではなく、個展やイベントなどでの販売が多いのはなぜでしょう?
お客さんが“ちび人形”をひとつひとつ一生懸命選んでくださっている姿を見るのが好きなんです。“ちび人形”は1点1点すべて違います。顔の表情もそれぞれなので、みなさん“ちび人形”とにらめっこしながらどの子を連れて帰ろうか迷ってくれます。



― たくさんの“ちび人形”をつくるのは大変そうですが、毎回どれぐらい作られるのですか?
私は同じ作業や工程を繰り返し制作するのが得意なんだと思います。親から聞いたのですが、幼少の頃の私は大きな丸の中に小さな同じ丸をひたすら描いたりしてたとか。恐いですよね(笑)1回の出店で100体程度ほどの“ちび人形”を連れていきます。はじめにどんな子をつくるかデザインを考え、次に数を決めて、あとは黙々と制作を進めます。たまに徹夜で作業したり大変なこともありますが、ど根性でやっています。


10月の名古屋城のMARKETで販売予定の初ハロウィン“ちび人形”のラフスケッチ。


この時点でディテールがすばらしい。ハロウィン“ちび人形”も人気が出そう。

― 大変な作業だと思いますが、以前のようなモヤモヤは出てこないのですか?
モヤモヤはもう出てこないです。創作している時は頭の中にちび人形”を楽しみにしているお客さんの顔が浮かびます。そんなお客さんたちをがっかりさせるわけにはいかないぞ!って。あと最近、自分が“ちび人形”を作り出しているのではなく、”ちび人形“が私に作らせてくれているような感覚がありますね(笑)これからもずっと大切に続けていきたいと思っています。





― 神経を使う作業の連続かと思いますが、リフレッシュする方法などあったら教えてください。
ヤギですかね(笑)1年前にヤギを飼いはじめて当初2頭でしたが今や子供も生まれ6匹の大所帯に。すごく癒されています。あと、ピンチの時に手伝いに来てくれる製陶所勤務時代からの友人やアルバイトに来てくれる10代の子と話すのもとても楽しいです。10代の子から推しの存在が人生にいかに大切かということを学び、私も推しのミセス(Mrs. GREEN APPLE)の歌を聴いたりギターで弾いたりしてます。それとYouTubeでハマってるのは岡田斗司夫さんですね。これからの10年をどう生きるかなど勉強になっています(笑)


ミセスの曲をギターで披露してくれました。犬のミツローも気持ちよさそう。

― これからの10年の生き方!うえのさんのプラン気になります。
世界に挑戦したいです。世界中で個展をして、たくさんの人に会いたい。実は、来年中国の北京で個展を予定しています。最近、中国の方からのお問い合せが増えたりイベントや個展などに来てもらうことがあって。アジアだけでなく海外からのオファーも絶賛募集中(笑)あと、自分で考えた物語の絵本を作り登場人物の”ちび人形”も作りたいです。以前も少しやっていたのですが、今はなかなか時間が取れなくてやれていないので。他にもやりたいこといっぱいなのですが、とにかく時間が足りない!



― 絵本も世界展開も楽しみです!世界中の人たちが”ちび人形”で幸せな気持ちになるといいですね。最後に、名古屋でよく行く場所やお店があったら教えてください。
名東区の一社にある「BookGalleryトムの庭」が大好きです。元々は多治見にあったのですが、その時からのお付き合いでもう17年くらいになります。ここで、オルファースという絵本作家に出会いました。それが今の作家活動にもつながっているなと感じています。「オルファースに想いをよせて」という個展も開催させていただいたり、とても思い入れのある大切な場所です。

うえのえみ
◎Instagram
※SOCIAL CASTLE MARKET2024の出店は10/6(日)です。事前予約や詳細はうえのさんのInstagramをチェック!

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Text:Hiyori Sakakibara(THE SOCIAL)
Photo:Eri Yamamoto(THE SOCIAL)

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