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2024年09月02日
【PEOPLE】“日本茶や器を好きになるきっかけに” 下地悠介 / YATAGARASU [日本茶カフェ]
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MARKETや街で今気になる人に話を聞く「PEOPLE」第4回は、今春、新生「中日ビル」のB1階にオープンした「YATAGARASU」オーナーの下地悠介さんと奥様の愛さん、スタッフの奥可奈子さんにお話をうかがいました。



― 店舗設計が本業とお聞きしたのですが、お店をはじめられたきっかけを教えてください。
下地悠介さん(以下悠介):たまたま出会ったんです、美味しいお茶と。地元は名古屋の南区で、高校を卒業してとくにやりたいこともなかったので近所の薬局でアルバイトをしていました。そのうち社員になり、いつの間にか店長になっていましたが、未来に何の野望もない少年でしたね。でも、25歳の時にこのままでいいのかなと思うにようになり、次に進むため、薬局を辞め、設計事務所で働くことを決意しました。

― 業界もまったく違う設計事務所になぜ転職しようと思ったのですか?
悠介:当時、居酒屋に呑みに行くのが好きで、店のデザインがかっこよくて好きなお店が2つありました。ある時、そのどちらもが同じ設計事務所が手掛けていると知り、勝手に運命的なものを感じて、人材募集をしていたわけでもないのに「そちらで働かせてほしい」と連絡しました。もちろん、何の経験もないですし、設計やデザインの学校を出ているわけでもないので、給料なしでいいのでと修行生のような感じで働かせてもらいました。



― それまでの暮らしと一転して大変だったのではないですか?
無給だったので、日中は設計事務所で学ばせていただきながら、夜はイタリアンでアルバイトをする日々を送っていましたね。1年間は本当に給料なしでした(笑)その後、建築の仕事を覚えていき社員になり、いろいろな店舗づくりにも携わり、気づけば5年ほど経っていました。一通り設計もできるようになり、30歳になるタイミングで独立を考えるようになり、同じぐらいの時に美味しいお茶と出会ったんです。

― 美味しいお茶とはどのように出会ったのですか?
悠介:その頃、妻と結婚することになり指輪を探していました。何か特別な指輪がいいなと思っていてインスピレーションを得たいと名駅のとあるお店に行ったんです。そしたらそこの店員さんが真鍮の指輪を身につけていたのが目に入って・・・。どこのものか知りたくて思い切って声をかけたんです。すると、その方の東京の友人で指輪作家をしている方が作っているもので紹介してもらえることになり、すぐに東京へ会いに行きました。

― ショップの店員さんに紹介してもらってすぐに東京ってすごいですね。
悠介:ご紹介いただいた指輪作家さんと東京でお会いして話していると、なぜだか、その方の大学時代の友人のお茶農家さんの話になったんです。特別お茶に興味があったわけでもなかったのに、話の流れで、そのお茶農家さんのところに遊びに行かないかと声をかけてもらったので、京都へ行くことになりました。

― 次は京都ですか(笑)なにか運命に導かれているような展開ですね。
悠介:本当に。そして出会ったんです。今まで飲んできたお茶とは比べものにならないくらい美味しいお茶と。甘味苦味深みが格段に違いました。有名な茶畑や茶屋でなくても、こんなに美味しいお茶があるという事実に驚くと共に、世に出ていないことがもったいなく感じて。ちょうど独立して事務所を借りたタイミングだったので、このお茶を出せたら最高じゃないかと。それが、僕たちのお茶との出会い、YATAGARASUのはじまりです。




不動の1番人気「抹茶ラテ」注文を受けてから茶せんで点てて提供。上質な抹茶の香りと雑味の無い旨味、甘味、苦味を味わえます。

― ミラクルすぎますね。店員さんに声かけていなかったら、YATAGARASUはなかったということですね。
悠介:そうなりますね。とはいえ、事務所は、駅からも遠かったのでお茶をメインにするつもりはありませんでした。ですが、当時、妻と二人で設計事務所を切り盛りしていて、工事なども知り合いの業者さんにお願いできたり自由度も高く「どうせやるなら徹底的にやりたい」という自身の性格もあって、気づいた頃には設計事務所の一部がカフェになっていましたね(笑)

― 事務所がカフェになっていくのも何かに導かれている感じがありますね。
悠介:はじめはお茶とモナカだけ出していました。あと陶器が好きで、事務所を始める前から好きな作家さんには「将来お店をやるのでその時には使わせてくださいね」と話をしていたので、その陶器も販売したり実際に店内でも使用しています。



床屋さんだった場所をリノベーションした1号店。現在休業中だがまた何かしたいと検討中だとか。


― 目まぐるしい環境の変化。その時の愛さんの心境はいかがでしたか?
下地愛さん:想像もしていない展開ばっかりで(笑)本当に最初は、お茶や陶器を設計事務所の一部で少し販売したり、来客があった時に提供するくらいなのかなと思っていました。なので、カフェスペースがしっかり設計されている図面が上がってきて「ん?」って。でも、接客も嫌いではなかったですし、とりあえずやってみようかなと。そこからあっという間に今に至っているのですが、お客さんに喜んでいただけるのはとても嬉しいですね。


― 愛さんの柔軟性と包容力がすばらしいですね。メニュー開発などはどうされていたのですか?
悠介:二人ともカフェなどで働いた経験もなかったので、美味しいと思うものを目指して日々試行錯誤していました。抹茶のテリーヌを作り始めた頃から今のスタイルに近づいていき、お客さんの反響もありインスタのフォロワーも伸び始めました。そしたら、もっと面白いことをしたいなって。そのあたりからマーケットなどのイベントにも出店するようになりました。


― マーケットに出店いただく際、毎回、限定商品や新作があったりと、とても楽しませていただいています。
悠介:それは良かったです。マーケットはいろいろな人がいて勉強にもなりますし楽しいですね。出店では、いつもと同じことをするのではなく常にチャレンジしたくて。その時々のお客さんに楽しんでもらえる内容を考えるのが好きですね。例え失敗したとしてもそこから学べることもたくさんありますから。


― そして、中日ビルにお店ができると発表があった時も本当に驚きました。
悠介:実は、初めはお断りしていました。店舗ごと東京へ移すことも考えていた時にお誘いいただいて。しかし、中日ビルさんから何度もアプローチいただくうちに、名古屋の中心の栄でこれまで以上にもっとやってみるのも良いのかなと思い本腰を入れる決意をしました。店舗設計はもちろん、細部までこだわったので本当に寝る暇がないくらい大変でした。中日ビルで営業を初めて半年、バタバタで大変なこともありましたが、スタッフも20名ほどに増え体制も整ってきました。毎日ものすごく忙しいですが、スタッフは誰一人辞めていなくてみんな本当に心強いです。その中で、初めての社員であり1号店から働いてくれている可奈子ちゃんは抹茶愛が強烈なんです(笑)



― 可奈子さんはいつから抹茶が好きなんですか?
奥可奈子さん(以下可奈子):生まれた時から抹茶が大好きです(笑)抹茶への感度は格段に高いですね。YATAGARASUは働く前から大ファンでした。初めて抹茶のテリーヌとラテを飲んだ時にものすごく感動して。ラテは、お茶の香りの高さが段違いですし、テリーヌは抹茶を凝縮したような味わいでありながら他の人でも食べやすい甘さで、口溶けの良さがもう・・・。一瞬で虜になりお店に通っていましたね(笑)前職も抹茶のお菓子を作る仕事をしていたのですが、会社が廃業することになり困っていた時に声をかけてもらいました。


抹茶愛が強すぎる可奈子さんは緑色が大好き。この日はパンツとスニーカーが緑。オシャレ!

― 大好きなことを仕事にできて、まさに天職ですね。メニュー開発はどのようにされているのですか?
可奈子:以前の職場では、自分でゼロからメニュー開発することが多かったのですが、今は、悠介さんから「〇〇と掛け合わせたお菓子を作ってほしい」など、大枠の草案をもとに、それに応える感じでスタッフ間でいろいろと意見を出し合い試行錯誤しながら作っています。それが刺激的でとても面白くて。はじめは頭が???でいっぱいになることもありましたが、自分の頭にはない組み合わせがどんどん入ってくるのがクセになります。それがまだ見ぬ抹茶の新しい可能性へ繋がっている気がして、とても刺激的で楽しい抹茶ライフを送れています。



人気のおにぎりと豚汁セット。おにぎりの上の抹茶バターをバーナーで焼いて溶かしていく。



香ばしい抹茶とバターの風味とごはんが最高に合います。そして豚汁がこれまた絶品。


― 皆さんの探究心と情熱が斬新かつ美味しいメニューを生み出しているのですね。日本茶がこんなにいろいろと楽しめる奥深いものだとは知りませんでした。
悠介:日本人は、日本茶が当たり前になりすぎていると感じます。例えば、お寿司屋さんで「あがりください」って当たり前に言うじゃないですか。日本茶は、お金を払わなくてももらえる存在になっていませんか。でも、お茶って、ワインやビール、珈琲と同じで1年に1回農家さんが心を込めて収穫したもので、それをどう加工して飲むかの違いだけなんです。珈琲豆を買って家で淹れる人は多いのに、いい茶葉を買って家で淹れる人が少ないのは、お茶のかっこよさが伝わっていないからなのかと。だからこそ、YATAGARASUはお茶の魅力を伝えるきっかけになりたいんです。いい茶葉を求めて、思わず京都に行きたくなってしまうような。それで、ゆくゆくは、珈琲屋さんみたいに、お茶屋さんになりたいと思う人が増えたらいいなって思っています。





― たしかに。お茶専門のカフェをやる人が増えたらいいですね!
悠介:YATAGARASUの店名は、神武天皇を道案内したとされ三重県熊野地方で導きの神として信仰されている”八咫烏”が由来です。YATAGARASUがきっかけで、日本茶や器に触れて、好きになってもらえたらなって。日本人にとって当たり前と思われているお茶や器も、見方を変えて、違う角度から向き合うと、色々な考えや疑問が出てきてとても面白いです。お茶にもそれぞれ違いがあって、京都のお茶が好きな人もいれば、静岡のものが好きな人もいる。それでいいんです。馴染み深いものの更なる魅力に触れた時、気づけた時、少しだけ豊かな気持ちになれる気がするんです。





― 私たちもお茶の魅力に気づくきっかけになりました!最後に、下地さんが名古屋でよく行くお店を教えてください。
悠介:池下にあるosteria LIU(オステリア リュウ)ご存知ですか?個人的に名古屋で一番美味しいと思っているイタリアンです。実はここ、僕が設計事務所で修行させてもらっていた時に、夜に働いていたお店です。トリュフなど、高級な味はここで教えてもらいましたね(笑)今でも、結婚記念日や特別な日に食べに行きます。あと、よく行くお店で言うと今池のピカイチですかね〜。味も接客も素晴らしいです!今日も頑張った、疲れた~っていう日に夫婦でよくお世話になっています。


YATAGARASU
愛知県名古屋市中区栄4-1-1 中日ビル地下1階
営業時間:9:00~21:00 (LO 20:30)
◎Instagram

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Text:Hiyori Sakakibara(THE SOCIAL)
Photo:Eri Yamamoto(THE SOCIAL)

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