MARKETや街で今気になる人に話を聞く「PEOPLE」第3回は、渋くて味わいのある店舗物件などを紹介しているインスタも話題の不動産屋「noma(ノマ)」の野口夏美さんにお話をうかがいました。
― いつも楽しくインスタ拝見しています。野口さん目線の物件おすすめポイント(この壁のタイル好き、隣の店のこれ美味しいなど)がイメージ膨らみますね。
そう言ってもらえると嬉しいです。物件を探している人は、間取りや外観内観だけでなく具体的な特徴や周辺の街の情報なども知りたいだろうなとメモ的に書いてます。
― 不動産業をはじめられたきっかけを教えてください。
私は静岡県の御殿場の出身で名古屋に来たのは5年ほど前です。陶器を作る人になりたくて、瀬戸市にある窯業訓練校に行くために愛知県に来ました。陶芸の勉強はとても楽しかったのですが、100均で陶器が買える今の時代、就職を考えた時に厳しい部分もあり、陶芸は趣味にしてお金を稼げる仕事をしようと住宅系賃貸の不動産仲介会社で働くことを決めたのがはじまりです。
― やりたいこととお金のバランス難しいですね。不動産のお仕事はいかがでしたか?
宅建の資格も取得しガッツリ働いて稼げましたね(笑)歩合制だったのもあり毎月売上目標を達成するように頑張っていたら気づけば主任にもなっていました。でも、仕事と向き合う中で葛藤もあって・・・。
― どんな葛藤があったのですか?
不動産仲介の仕事って、お客さんといっしょに物件を見て回ったりする時、長いと半日とか行動を共にするんです。そうすると意気投合したりして仲良くなって呑みに行ったりするタイプなんです私。今でも「なつみちゃん、呑みにいこ〜」って誘ってくれる当時のお客さんがいます。むちゃくちゃ嬉しいですね。そんな大切なお客さんたちには、心の底から気に入ったところで暮らしてほしい。でも、会社に属している以上は毎月一定の売上を目指さなければいけなくて、お客さんに寄り添ってゆっくり物件探しにお付き合いすることができないモヤモヤがあって・・・。
― なるほど。お客さんにもっと寄り添いたい気持ちになったのですね。
そんな時期に廃校した小学校を再生したベンチャー企業などが集まる施設「なごのキャンパス」にオフィスがあるお客さんの家を仲介しました。内見が終わった後、オフィスまでお送りする際に「よかったら職場見て行く?」とお誘いいただき、なごやのキャンパスを案内してもらいました。そこでは、自分と同年代くらいの若い方も独立してイキイキと働いていて、その姿を見た時に、パッと自分の今後進みたい道が広がったんです。あ、私も独立したいんだって。
― きっとそのお客さんも野口さんを気に入ったから案内されたのでしょうね。
3年ほど不動産で働いているうちに、自分の好きな物件の傾向もわかってくるようになりました。私は新しい物件よりも、古い物件の方が好きです。今の世の中、古い建物って壊して更地にするという流れは多いです。でもそれが一概に良いとは思えなくて。今ある良い物件は、なるべく丁寧に大切に使っていけたらいいのではないかと考えています。前の借主のお店の造作が残っていたとしても、そこに価値があることもあるのではないかと。全部同じではなくて、建物にも多様性や個性があっていいと思うのです。そして、そんな個性ある物件が良い人に渡るともっと魅力的になっていくことも知っています。私がその橋渡しをできたらいいなって。
― たしかに。新しい建物は似たようなものが多いように感じますね。独立されてからは店舗物件が多いのですか?
そうですね。建物やお店を通して人との繋がりができていくことが大好きなんです。自分が携わったところが、街で愛されるお店となる。そして、そこで自分もご飯を食べ、お酒を呑み、時間を過ごすことができる。お店ができる前からできた後の過程まで見ることができるのがやりがいですね。
― お店で喜んでいる人たちを見ながら食事するのは格別でしょうね。独立してお仕事は順調にいきましたか?
独立した当初は、Vinofonicaという飲食店でアルバイトもしていました。そのお店が移転してParadaise Natureとしてリニューアルする時のお店の仲介も担当させてもらいました。いろいろな人とのご縁で徐々に不動産の仕事も増えていきましたね。個人的にも大好きで応援したいと思うお店に携われること、そして、これからもそんな出会いがたくさんあると思うと、とっても楽しみです。
― たくさんのご縁がありそうで楽しみですね。野口さんがアテンドした物件を見てみたいのですがお願いできますか?
わかりました!いくつかお店をご案内させていただきますね。
Case1:花の仲卸市場を新しいカタチで活用する
大須観音から徒歩5分の場所にある「MATO OBJECTS STORE」開放感のある明るい店内には、店主の的山さんがセレクトした作り手のこだわりを感じる陶器や生活雑貨などが並んでいます。
他では見かけないような個性的で愛らしいモノがいっぱいの店内。2Fの空間も素敵でした。
的山さん(以下、的山):元々、アパレルで働いていて独立しようと決めた時に、知り合いから野口さんのことを紹介してもらったんです。名古屋でフリーで古い物件をメインにした不動産をやっている子がいるよって。僕自身、その街に昔からある雰囲気を大切にしているような古い建物が好きで。直接お会いしてお話をさせてもらった時に「この方なら一緒に探してくれそうだ」と思ったのを覚えています。
野口さん(以下、野口):嬉しい〜。はじめは千種区あたりで探していたのですが、なかなかいい物件がなく、的山さんから昔住んでいた松原に良さそうな物件(フラワーセンター)があるから詳細を調べてほしいと連絡もらったんです。それで、オーナーさんとやりとりして話が進んでいきました。ここはフラワーセンターを含む花き市場なのですが、港区に新しい花き市場ができ移転する店舗もいるなか松原に残ると決めた方々がいらっしゃいます。なので、朝は花市場であることもあり、人の流れがあり活気があります。昼以降はどちらかというと静かで落ち着いているエリアですね。
的山:朝の活気のある雰囲気も好きですね。でも、にぎわいがある誰でもわかるような場所というよりは、ここを目当てに来てもらえるような場所にお店を持ちたくて。なので、昼以降の落ち着いた雰囲気も気に入っています。
野口:この建物の使い方は従来通り花の仲卸市場であったり倉庫として活用される方が多かったです。なので、昼以降、人の通りはあまりなくて。でも、建物のオーナーさんの思いとしては「古い建物を大切にしながらも人の流れる場所にしたい」と。MATOさんが来店のあるお店として入り新しいカタチができたのではないかと思っています。オーナーさんも喜ばれていました。
当時のエピソードを楽しそうに話されるおふたりのよい関係性が感じられて微笑ましい。
オーナーさんとの関係性や理解があってこそできる取り組み。従来の使い方や文化も残しつつ、新しい活用もはじまり、近く古着屋さんも入るそうです。これから新しいカルチャーが生まれるエリアになりそうで要注目です。
Case2:自分も絶対行きたいお店に携わる
千種駅から少し歩いたところにある「ZEZE」作曲家のRamzaさんとダンサー舞さんによる美味しいご飯とお酒とGOOD MUSICが楽しめる空間。
野口:最初は、インスタのダイレクトメッセージに舞さんから連絡があったんです。「お店を作りたくて場所を探している」って。そして内見がてらヒアリングをするためにお会いしたのが最初です。
舞さん(以下、舞):そうそう。知り合いに相談したら「名古屋で面白い物件を紹介している人がいるよ」って、野口さんのことを教えていただいて。
野口:それで、実際にお会いした時に、一目惚れしたんです(笑)普通に生きていたらなかなか出会えないような方達じゃないですか。でも、お店ができたら、いつでもお二人に会える。私も絶対に通いたいなって。自分が行きたいと思う店を作る工程の中に携わらせてもらえたこと、本当に嬉しかったです。
Ramzaさん(以下、Ramza):はじめはもう少し違う場所で探していました。でも、なかなか見つからなくて。そんな時、nomaさんから「この物件すごくいいと思うんです」っていう連絡が来て。とはいえ、最初にここを内見した時は、本当にこの場所でやっていけるの?と不安でした(笑)
野口:元々は和風スナックのようなお店の居抜きだったんです。今の店内のように打ちっぱなしの壁面でもなく、雰囲気も全然違いました。でも、私の中でこの街でお店をやってほしいという気持ちがありましたね(笑)
Ramza:最初は不安だったものの店内の壁を減らしたり壁紙を剥がしてみたら想像の100倍以上よくて!さすがのnomaさんの決めうちでした。あと、今池など主要な街から自転車で来れるくらいの距離感と落ち着いている街の雰囲気も気に入っています。
野口:ZEZEさんがここでお店をはじめてこの場所が建物が格段に魅力的になりました。ここに来れば、お二人にも会えて美味しい料理にお酒、そして音楽も楽しめる。私の大好きな推しのお店です。
壁のドアを開けると赤い空間のお手洗い。ここでも音楽を楽しめる仕掛けが。
お二人と話している野口さんの嬉しそうな顔が印象的でした。お店も隅々までものすごくかっこよくて食事もお酒も音楽も最高の空間でした。
Case3:独立して初めて担当した特別で大切な場所
千種駅近くにある古い長屋の奥にひっそりとたたずむ「ぱうぜ」店主の加藤さんが大工仕事で半年がかりで作ったアットホームな唯一無二のお店。
加藤さん(以下、加藤):なっちゃん(野口さん)はここに移転する前のお店からのお客さんだったんだよね。
野口:そうそう。静岡から名古屋に引っ越してきたくらいだったと思います。知り合いの店主さんから最終着地点として紹介されたのが「ぱうぜ」だったんです。
80年代のサブカル系雑誌やレコードも楽しめる。オブジェのように飾られている腰を痛めた時に加藤さんが愛用していたコルセットがキュート。
加藤:その時からの付き合いだね。前の店を取り壊すことになって立退しなければならなくて。それで、なっちゃんに相談したんだよね。ちなみに、この店は4軒目で僕の集大成ですかね。
野口:独立して初めてのお店は絶対に「ぱうぜ」が良かったんです。「ぱうぜ」は私にとって大切な場所だったので。ここで加藤さんと乾杯しながら呑むビールが、時間が、本当に大好きです。
キッチンの壁に達筆な字で書かれたお品書き。小さすぎて見えない・・・(笑)
加藤:うちのビールはいつでもキンキンに冷えているからね。
野口:話しながらビールを呑んでいるといつの間にか酔っ払っていますね(笑)落ち着くんです。他で呑んでいても、最後はここに帰ってきたくなります。
瓶ビールを呑み交わす姿は、まるで仲の良い親子のよう。
「ぱうぜ」には、かつての店からの常連も多く訪れるといいます。お店の場所や形は変わっても、加藤さんの人柄に魅了される人たちが夜な夜な集まる素敵なお店でした。
― ご案内ありがとうございました!お客さんの気持ちや野口さんの考える不動産のカタチが少し見えた気がします。
それはよかったです。私のお客さんはリピーターの方が多くて、親元を離れる時、カップルになる時、家族を作っていく時、お店を始める時、人生において大切な何かのフェーズで都度相談いただいたりします。そんな関係を今後もずっと大切に続けていけたらいいなって思っています。屋号の「noma」は、何かと何かを繋げる仲介のような「〜の間(のま)」です。あと、漢字の「々(ノマ字点)」からきています。今はローマ字で「noma」にしていますがもう少し歳を重ねて渋さが出てきたら将来的には漢字にしたいですね(笑)
― 大切な時に寄り添ってくれる不動産屋をお客さんも求めていると思います。いつか物件探しの相談させてください!
― 最後に、野口さんが名古屋でよく行くお店や場所を教えてください。
公園や広場が好きで鶴舞公園は近所なのでよく行きます。必ず寄るのが亀のいる池で、亀がよく甲羅を干している岩があるのですが「今日は何匹上っているかな」と予想しながら見に行くのが楽しみ。ある日の亀は4匹が空の一方向を見つめていてバンドのジャケ写みたいになっていました。
あと、生きる化石と呼ばれているソテツという大きい植物が所々生えているのですが、フォルムが恐竜みたいで太古を感じれます。私が古い建物が好きなのと同じ理由で、洒落っ気やユーモアのあるものを気軽に見れる良いスポットです。
株式会社ノマ(noma)
◎Web
◎Instagram
【募集中】不動産経験者で一緒に活動していただける方を探されているそうです。ご興味のある方→株式会社ノマのお問合せから連絡してみてください。
→「PEOPLE」掲載リスト一覧を見る
Text:Hiyori Sakakibara(THE SOCIAL)
Photo:Eri Yamamoto(THE SOCIAL)
- 2024年9月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年5月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年9月
- 2021年6月
- 2021年3月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年6月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年3月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2012年10月
- 2012年9月
- 2012年8月
- 1990年9月
- 1800年9月