
MARKETや街で今気になる人に話を聞く「PEOPLE」第2回は、MARKETの会場でもひときわ異彩を放ちお客さんの目を釘づけにしていつも賑わいが絶えない花屋「Boheme.(ボエム)」のクレシ預(あずか)さんと沙織さんに中村区にあるお店でお話をうかがいました。
― 実店舗もアート感あって素敵ですね。お店はいつオープンされたのですか?
預さん(以下、預):もうすぐ丸2年になります。地元がこのあたりで、空き家だった古民家をリノベーションしてお店にしました。壁や扉、カウンターや看板など自分たちで塗装したり絵を描いたりしています。
”QRAZY PoTs”コーナーは、好きな植物とポットが選べます。1点ものでどれもかわいい。
― お店をはじめる前はどこかの花屋さんで働かれていたのですか?
預:いいえ。実は、花屋で働いた経験はありません。巡り合わせというのでしょうか・・・。これまでの自分達の過去やひとつひとつの出来事を振り返ると花屋に導かれているような感覚がありました。点と点が繋がって線になるような感覚、とでもいうのでしょうか。これは花屋をやるしかないなと。
― どんな巡り合わせで花屋さんをはじめたのか、ぜひ教えてください。
預:もともとデザイン関係の仕事に就きたいなとはずっと思っていて。初めは、大学にいかずにファッションの専門学校を志望していました。親に反対されてしぶしぶ大学へ行ったのですが、そのおかげで、大手自動車メーカーに勤務する経験を得られたり、その後の転職先では経営コンサルの仕事につき、事業と事業を掛け合わせて相乗効果を狙う経営手法や日本の中小企業の課題についても学ぶことができました。
花屋をやろうかと考え始めた頃、花屋という業態にカフェやフォトグラフィなどの別事業を掛け合わせるという発想は、きっと経営コンサルの仕事を経験していなければ辿り着けなかったかもしれません。振り返ると、そんな業務経験もBoheme.にたどり着くための一つの「点」であって、デザインの仕事を諦めきれなかった経験も、親に専門学校への進学を反対された過去も、全てが「点」だったのだなと気付きました。
― なるほど。いろいろな経験や思いが今につながっているのですね。
コロナ禍でリモートワーク化が進み、削減された通勤時間で珈琲を淹れながら自宅で植物に水やりをする至福なひと時を噛み締めたサラリーマン時代の経験や身近に観葉植物を仕入れて販売するような人が現れ、仕入れルートについて運良く教えていただけたこと。偶然にも自分の地元に店舗として使用できる物件がタイミング良く空き家になったこと・・・。全てが「点」のように見えて、それらを繋いで線にしたら、Boheme.に辿り着いたって感じです。でも一番大きなきっかけは、コロナ禍で妻の沙織がカメラマンとして副業をスタートさせたことでした。
― 奥様の沙織さんがはじめるきっかけだったんですか?
沙織さん(以下、沙織):そうなんです。花屋というより最初はカメラマンになりたくて。元々、客室乗務員として働いていたのですが、コロナ禍で仕事が減ってしまったんです。そんな少しくすぶっていた時に自分たちの結婚式の前撮りを担当してくれた方々のカメラを通して1から世界観を作る姿がとても自由で楽しそう目に映りました。それで、私もカメラマンになりたいなと思い、2ヶ月後にはカメラを購入していました。
― コロナ禍だったからこそのそれぞれの衝動があったんですね。
沙織:これをやりたいと思ったら絶対にやるタイプなんですよね(笑)はじめは友人のマタニティフォトの撮影から始めました。撮影の中で、特に大切にしていたのがお花です。私たち二人とも色彩豊かなお花が大好きで、撮影でもそんなお花を使いたいと思っていました。でも、名古屋で自分たち好みのお花を多く取り扱っているお店になかなか出会えなくて、日々探し回っていました。1日に6店舗ほど探し回る日もありましたね。そのうちに、ほしい店がないなら自分たちで作ればいいやって思って「花屋をやらないか」と夫に相談しました。
― 色彩豊かなお花が並ぶ「Boheme.」の誕生秘話ですね。
預:お花だけじゃなくて花瓶もそんな感じでしたね。今、お店に並んでいるアンティーク花瓶はほぼ全て、アメリカから直接買い付けています。
― 個性的な花瓶はアメリカから買い付けていたんですね。
預:はじまりは、自分たちの結婚式でした。会場装飾で個性豊かなアンティークの花瓶をいっぱい使いたかったのですがレンタルするには高すぎて・・・。それなら、直接探して買った方が良いんじゃないかと。国内にはピンとくる花瓶がなかなかなくて海外のバイヤーやセラーをあたっていたところアメリカで見つけたんです。
いまや、アンティーク花瓶はBoheme.の強い個性を構成する重要な要素になってくれていますが、自分たちの結婚式の準備経験すらも「点」の一つになっていたなんて、自分でもビックリします(笑)今でもお店に並ぶ花瓶たちは当時のご縁を大切にアメリカから直接買い付けています。
様々な形や色の花瓶が並び、アンティーク以外にもお手頃なものも。どれも素敵で迷います。
― イメージを実現するための行動力すばらしいですね。でも、花はモノとは違い生き物なのでむずかしそうですが。
預:一般的には、何年か花屋で修行してから独立する方が多いと思います。でもそれでは感性やセンスが修行先の花屋に染まってしまう気がしていて。僕たちは何もわからない未経験の状態でのスタートでしたが、だからこそ自分たちの個性を存分に発揮できているのでは、と開き直っています。最初の頃はYouTubeで「お花の束ね方」って検索して一生懸命勉強していましたね。初めてお花を仕入れに市場に行った際も本当に緊張したのを覚えています。花市場での作法やルールなども知らなくて無礼を働いてしまったこともありました。市場の方に色々と教えていただきながらひとつひとつ身につけていきましたね。
― 今のおふたりから想像できませんね。びっくりです。
沙織:そんな時期に「マルシェに出たいな〜」って探していて見つけたのがSOCIAL TOWER MARKETでした。お店だと基本的にお客さんを待つ姿勢になるのですが、出店は自分たち発信で新しいお客さんにも見てもらえるチャンス。花屋がマルシェに出店する時って、実店舗とマルシェの2店舗営業で掛け持ちするところが多いと思います。でも、当時は0歳児の娘を抱えながら夫婦二人でお店を切り盛りしていたこともあり、2店舗営業はできないと諦めたんです。ところが物事は意外と捉え方次第で「いっそのこと実店舗は休みにして、MARKETに全集中しちゃおう!」という発想に切り替えると、色んなアイディアが浮かんできました。2店舗営業をする、という固定概念から切り離された途端、「3m×3mのテント下の小さな空間にBoheme.の世界観をギュッと詰め込めたら可愛いに決まっているし、お客様にも絶対に喜んでもらえる」という確信に変わったんです。
今でも出店させていただく度に、インスタのフォロワーが200人ぐらい増えます。マーケットに向かう日の朝は、ものすごい量のお花や花瓶を持っていくので運搬用のハイエースはパンパンになり大変なのですが、それでもやっぱり楽しくて。
― 大変でも楽しんでもらえて嬉しいです!ところで今は何か新しいチャレンジされてますか?
預:夏の風物詩がお店にあれば最高だなって、たぶん日本で初めて花屋としてかき氷をはじめました(笑)あと、お花のブーケに見立てたクレープがあったら面白いんじゃないかと思い、クレープ焼き機を導入しました。今はスタッフ総勢でクレープ生地の開発から始めています。そして、お店の奥には、観葉植物用の温室も作っていて、着々と準備を進めています。
― 温室がある花屋さんもめずらしいし、店内のカフェスペースで、コーヒー、かき氷、ゆくゆくはクレープもってすごいですね。
預:ずっと未完成のお店であり続けたいと思っています。屋号である「Boheme.(ボエム)」はフランス語で「自由奔放」という意味なんです。「花屋だったらこうだよね」っていう当たり前にとらわれたくなくて。凝り固まった固定概念を一旦置いて、自由に考えてみて、自分達の想いにまっすぐにチャレンジしたいし、お客様にもそうであってほしいと願っています。誰かの当たり前に合わせるんじゃない、固定概念に囚われない自由さを肯定する。これは僕たちが花屋を通して伝えたい、大切にしているメッセージです。自由奔放で複合的な僕たちの花屋を通して、人生を見つめ直すきっかけになってもらえれば嬉しいなと。
カフェスペースの奥に温室を準備中。沖縄などで買い付けした観葉植物など増えていくそう。
店内の花を眺めながら喫茶を楽しめます。娘の明ちゃんもおいしそうにかき氷食べてました。
― 人生を見つめ直すきっかけをつくる花屋「Boheme.」最高ですね。おふたりの気持ちが強く伝わってきます。
預:花屋って僕たちにとって伝えるための手段なんです。花を通して、当たり前だと思っていた人生観や価値観が「アレ?意外と違ったのかも?」と再認識してもらえたらいいなと。なので、まずは自分たちが自由な在り方を体現できればなって。実は、独立すると決めた時、妻のお腹の中には娘がいたんです。
― お子さまができたタイミングでの独立。よく決断できましたね。
預:周りからは「独立を諦めた方がいい」とか「先延ばしにした方がいい」といった声を多くいただきました。で、やっぱり、あと1年くらいは会社員を続けた方が良いのかなと思い妻に相談したんです。そうしたら妻から「私は(独立する)覚悟、決めてるよ」って。ハッとしました。子供が生まれたらチャレンジはできないと思っている人って多いと思うんです。気づかないうちに、僕自身もそんな固定概念に囚われている内のひとりになっていたんですよね。固定概念って自分では気付けない無意識レベルまで根付いているものなんだな、と認識できた良い経験でした。
― 普通はためらいますよね。奥様の覚悟と決断すごいですね。
沙織:娘が生まれた年にお店がオープンしたんです。最初は思ったように仕事ができないモヤモヤしていたこともありました。でも、その状況すら受け入れてしまったらすごく楽になって。できない時はできないからしょうがない。完璧にはできないかもしれない。でも、私ができないときは彼に頼む。彼が難しい時は私がやる。初めの方は、娘を保育園にも預けられなかったので、お店の中にベビーベットを置いて寝かせたり、起きている時には娘を抱っこしながらコーヒーを淹れたり、お花を束ねたりしていました。大変だと思っていることも、案外なんとかなります。それに、そんな時にしかできない経験や見れない娘の姿、貴重な光景ってたくさんありますよね。
― 大変そうでもやりたいことをあきらめない姿勢が大事ですね。
預:意外と諦めなくても人生なんとかなる、ということを0歳の娘から教わりましたね。掛け合わせ次第で、やりたいことはこれからもどんどん派生していくし、可能性も広がっていくのではないかと思っています。今は、自分たちが花屋を通して伝えたい想いを詰め込んだフラワーアートや空間の創作、店舗やイベントなどの花の装飾などしてみたいですね。自分たちの考えていることをギュウギュウに詰め込みたい(笑)
― 掛け合わせ次第で派生していく。どんな仕事でもできることですね。よい刺激もらいました!最後に、“名古屋でよくいくお店や場所”があったら教えてください。
沙織:中川区にあるmimodama_saunaです。ここのサウナはプライベートで借りれるので、水着を着て、お休みの日に夫婦でいくことが多いです。名古屋のサウナって、街中にあることが多いと思うんですけど、ここはおっきなお庭にどデカいミモザの木がうわっているんです。鳥の声や虫の音、緑や土の香りを感じながら、ぼーっとします。最高のリフレッシュですね。
― そんなサウナあるんですか!植物や自然とサウナの組み合わせいいですね。
預:あ、あと、サウナ繋がりでもう一つ!白山温泉。ここはやばいです。通常、サウナって3〜5セットくらいはしますよね。でも、ここは1セットでガツンとくるんです(笑)1回がとても深くて1度入ると30分くらいはぼーっとしてしまいますね。お店の近くにあるので、ぜひ行ってほしい。
― そんなガツンとくるんですか。ちょっとドキドキしますが今度行ってみます(笑)
Boheme.
愛知県名古屋市中村区十王町1‐4
営業時間:10:00~19:30 (土日祝〜19:00)
定休日:水・木
◎Instagram
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Text:Hiyori Sakakibara(THE SOCIAL)
Photo:Eri Yamamoto(THE SOCIAL)
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