
MARKETや街で気になる人に話を聞く「PEOPLE」第11回は、2024年度の松坂屋のメインビジュアルやスペシャルブースの作成を担当してくださり、国内外問わずファンが多い『HOME ECONOMICS EXPERIENCE』のションさんとマユミさんにお話を伺いました。
― 確立された世界観とかっこいいビジュアルに、知れば知るほど、どんどん好きになってしまう『HOME ECONOMICS EXPERIENCE』。『SOCIAL TOWER MARKET 2024 at松坂屋』では素敵なビジュアルとスペシャルブースの作成をありがとうございました。
ションさん(以下、ション):実は、『SOCIAL TOWER MARKET』には第3回から参加していました。それに、『松坂屋』といえば、名古屋で馴染みのある百貨店。そんな思い入れのある場所で、メインビジュアルを描かせてもらったり、特別な空間を作らせてもらえたことが本当に嬉しかったです。
― なんと嬉しいお言葉・・・!空間やビジュアルを作成していただいた中でのエピソードがあれば教えて欲しいです。
マユミさん(以下、マユミ):SOCIALのテーマである「社交場」をどう分析し、表現すのかについて、ションと何度も話し合いました。特に、今回は屋外ではなく百貨店の一角で空間を作るという難しさもあって。「Barがあって、音楽があって、様々なモノがあって、そこに人が集まる」これが私たちの分析して表現したかったSOCIALの要素だったのかなと思います。それだけ大切に考えたからこそ、たくさんのお客さんが来てくれて、出来上がった空間を見れたことがとても嬉しかったですね。
― 改めて素敵な空間をビジュアルをありがとうございました。今日はそんなお二人のことをたくさん教えていただけたら嬉しいです。ご出身は名古屋ですか?
マユミ:ションは名古屋の北区出身なんですが、私は知多半島にある武豊町の出身です。小さい頃から絵を描くのが大好きで、将来はファッションデザイナーになるのが夢でした。スーパーのフルーツに貼ってあるシールとか、ペットボトルのキャップを集めるのにもハマっていて、今思うと、それがデザインに興味を持つきっかけだったのかなって思います。「このキャップかっこいいな〜!」って。お洋服のイラストもよく描いていて、中学校ではもちろん美術部に入部。その後はファッションを学べる専門学校に進学しました。
― マユミさんの幼少期のエピソードがそのまま今のお仕事につながっているようですね。キャップ集め?もとてもユニークで可愛らしいです。
マユミ:そうですね!実は、ションも似たようなところがあったんですよ。
ション:僕は子どもの頃、工事中の道路の脇にできる仮設の小道が大好きだったんです。あの道を通るのが、なんだか特別な冒険みたいでワクワクして。こうやって振り返ると、二人とも少し変わった、奇妙な子どもだったのかもしれません(笑)
大学は名古屋市立芸術大学でテキスタイルを専攻していました。本当はファッションデザインを学べる専門学校に行きたかったんですけど、親から「せっかくなら大学に行った方がいい」と勧められて。それで、洋服に近いところにあるテキスタイルを選ぼうって思ったんです。ファッションが大好きでした。
― ユニークな趣味を持つ奇妙な子ども時代を通してファッションが大好きなお二人へと成長されていったのですね。
マユミ:そうですね。幼少期からの夢だったファッションデザイナーになるため、学生時代には名古屋のアパレル企業でインターンをしていました。しかし、その中で悩んでしまったんです。「青いアンチテーゼ」ってやつでしょうか(笑)企業って作業的だったり、数字を追い求める部分がありますよね。それが重要なことだと理解していながらも、自分の理想とは少し違うなと感じたんです。それで、「自分の好きなものを作って、販売したい」という気持ちが強くなり、好きなアパレルショップで販売員をやりつつ、DJや美容師さんのコーディネートをする仕事を2年ほどしていました。でも、アパレルショップで働くうちに「自分でも洋服のデザインをしてみたい」という気持ちがどんどん強くなり、最終的には企業のデザイナーに転職しました。最初は企業で働くことに抵抗があったのに、結局企業で仕事をすることになったんです(笑)でも、振り返ってみると、この時の葛藤や経験が今の自分にとって本当に大切なものだと感じています。
ション:僕は大学院まで進学しましたが、就職活動はあまりせず、卒業後は実家の内装業のお店で働きながら、自分自身でテキスタイルブランド『UTUSU』を立ち上げたんです。第3回の『SOCIAL TOWER MARKET』には『UTUSU』で出店していました。『HOME ECONOMICS EXPERIENSE』を始めるまでは、この形態で活動していました。
メモ:ここに、ションさんから当時の写真や『UTUSU』の写真を可能ならいただいて、入れたいです!
― 当初はお二人とも個々でご活動されていたのですね。お二人で、『HOME ECONOMICS EXPERIENSE』を立ち上げることになったきっかけが気になります!
ション:お互い10代の頃から音楽が大好きで、好きなカルチャーも似ていたので、自然と遊びに行く場所もいつも似たようなところでした。名古屋は狭いので、10年近く顔見知りの状態が続いていましたが、特に会話を交わすこともなく、そのまま30代を迎え、お互いがちゃんと話すようになったのは、『KAKUOZAN LARDER』がオープンした頃だったと思います。『KAKUOZAN LARDER』が今よりも小さな空間だったこともあり、イベントで一緒になった時に、自然と話す機会が生まれたんです。
マユミ:お互い、これまであまり話したことはなく、生まれた場所も違いましたが、幼い頃から似たようなものを見て、感じたり想像していたことが共通していたせいか、自然と話が合いました。振り返ると、私たちは同じエリアで活動してきたし、好きな音楽や遊び場所が共通していたこともあって、通じるものがあったのだと思います。それに、二人とも「モノを作る」という仕事をしてきたこともあり、感覚がとても近かったのかもしれません。だからこそ、デザインやカルチャーについて、そして今何を考えているのかなど、自由にいろいろなことを話すことができたんです。デザインの背景にあるカルチャーが似ていたからこそ、自然と通じ合えたのかなって思いますね。
― お話を聞いていると、全て繋がっているようにすら感じますね。
ション:これまでは、基本的に一人でブランドを立ち上げて、いろいろなものを作ってきました。でも、一人でやることには限界があるし、正直少し退屈だな〜と感じ始めていた頃に、二人で展示をすることになったんです。二人での展示とはいっても、あくまで個人と個人の共作です。お互いに感じることや、やりたいことが溢れてなかなかまとまらず、二人で着地点を探しながらファミリーレストランで何時間も語り合う日々が続きました(笑)
マユミ:話し合いを重ねた結果、私たちは、ションが制作面を、私がビジュアル面を担当するスタイルが一番バランスがいいと気づいたんです。ションが思うことや感じたことをじっくり分析して言語化し、その言語化を私がグラフィックに落とし込む。そして、そのグラフィックをションが再び制作に活かす。キャッチボールのようなやり取りですよね。最初は実験的に始めたこの分担が、意外としっくりきました。初めての展示の場所と時期もすでに決まっていたので、この分担で一気に進めようって(笑)本当に楽しかったです。そして、名古屋での展示が終わり、次は大阪で・・・というタイミングで、コロナが来てしまったんです。
ション:大阪での展示がコロナで延期になったことで、時間ができました。コロナ禍を通してお互いに新たに感じることがたくさんあって、だからこそ次回大阪で展示を行うときには、しっかりとパッケージも考えて取り組みたいと思うようになったんです。そして、生まれたのが『HOME ECONOMICS EXPERIENCE』なんです。
― 時代を通して、今を生きる中で感じるお二人の色々な想い。その一つ一つの想いと向き合ってきた結晶が『HOME ECONOMICS EXPERIENCE』ということでしょうか。
ション:はい。なので、『HOME ECONOMICS EXPERIENCE』が生まれたルーツには、私たちの思いの種がいろいろと繋がっています。例えば、コロナ禍に「STAY HOME」が話題になり、「家にいる」というテーマがとても大きくなりましたよね。僕自身も、このコロナ禍が家の中を見つめ直すきっかけになったんです。これまでアパレルでテキスタイルを使ってきた経験を活かして、家の中をもっと素敵に、そして楽しく、みんなを驚かせるようなものが作れるんじゃないかって。
また、今って服やアパレルが簡単に作れる時代ですよね。だからこそ、逆に「簡単にはできないこと」に挑戦してみたいなと思ったんです。リサイクルショップに行くことがあって、そのとき「こんなに物が溢れてるのに、さらに新しいものを作る必要があるのかな?」って疑問に思ったんですよね。
マユミ:私もアパレル業界での経験の中で「こんなに物が溢れているのに、大量生産って本当に人を幸せにしているのかな?」って考えることが多くって。物がたくさんあっても、それが人を幸せにするわけではないですよね。だからこそ、一つ一つのモノをもっと大切にするきっかけを、私たちが作れるようになったらいいなって思っています。
ション:『HOME ECONOMICS EXPERIENCE』という屋号は、ブランドではなくアートユニットです。その時々に私たちが感じたことを軸に、実験的に取り組みながら、どうなるのかを探りつつ、メッセージとして伝えていけたらと思っています。
マユミ:私達の表現する上での分析方法のことを「アナライズエレメント」と呼んでいます。例えば、部屋にあるコーヒーカップをただ使うのではなく、その存在について深く考えることを提案しているんです。コーヒーカップにあえて「これはコーヒーカップです」と書くことで、「これは何か?」と自分に問いかけ、その言葉を意識しながら、カップの機能や意味を改めて考えるきっかけになるんじゃないかなって。
普段何気なく使っているものを再度見つめ直すことで、日常の中に「考える」余白を生み出したいと思っています。決して「こうあるべきだ」と押し付けるつもりはなく、むしろ自分たちのプロダクトを通じて、考えたり、想像したりするきっかけを提供できたらと考えています。そうすることで、きっと新たなアイデアや発見が生まれるのではないかと思うんです。
― あたり前だと思っていたモノやコトも、改めて向き合う中で見えてくるナニカがありそうですね。最近は名古屋だけでなく海外でもご活躍をされていると伺いました。
ション:二人での活動を始め、『KAKUOZAN LARDER』や『LIVERARY』の方々と繋がっていく中で、その輪は海外へも広がっていきました。基本的にHOMEのプロダクトは英語表記が中心で、そこに図や絵もよく加っていることが多いんです。なので、このスタイルは、言葉の壁を越えて海外の方にも伝わりやすいんだと思います。海外の方だと、最初はビジュアルに惹かれて手に取ってくださることが多いです。その後、プロダクトを手にする中で、HOMEの考えや制作テーマに触れてさらに関心を持ち、深く好きになっていただけることが多いですね。
マユミ:仕事で、海外などに行った際に現地の空気やカルチャーに触れられることが好きです。オンラインが主流になった今でも、現地で直接コミュニケーションをとることで、仕事が始まっていくことが多いなって感じていて、これからも、そんなリアルな交流から生まれる展開を楽しみたいと思っています。最近は『SixTONES』や『XG』、『フジロック』のビジュアル作成にも携わることができました。二人とも音楽が大好きなので、自分たちの活動を通して音楽に関わることができて本当に嬉しいです。アーティストを分析して、音楽を聴きながらデザインするのは、すごく楽しいですね。
― 仕事を通して好きなことに触れられるってとっても素敵です!そんなお二人のこれからの目標はありますか?
ション:自分の地元でもある北区にアトリエを作る予定です。実は、そのアトリエ、僕が昔キッズモデルをしていた時に撮影で使っていた場所なんですよ。二人で韓国での仕事から帰国したその日に、父から連絡があって、自宅から5分ほどの距離にあるスタジオが空き家になるとのこと。それで内見をしたら、ここがアトリエ兼事務所にぴったりだんです。
なので、ここを拠点に全国にHOMEを届けにいくことができたらとっても嬉しいですね。名古屋って日本のど真ん中なので、どこにいくにも行きやすくて。東京だって、大阪だって行けます。仕事で日本各地に行くこともすごく好きなんですよね。
マユミ:そうそう。私たち、二人で旅行に行くってあんまりないんです。だから、ションくんの運転で、仕事で日本全国回るのが本当に楽しくって。九州に行く時も、途中まで車で、そこからフェリーに車を乗せて、また車で走るんですよ。これからもこうやって、二人で色々なところへ巡っていきたいですね。
ション:でもやっぱり、HOMEって、実験ユニットなんです。だから、その時に自分たちが何を感じるのかによって、やりたいことは変わっていくと思います。なので、具体的に何をしたいっていうかというと少し難しいんですけどね。でも、シンプルに自分たちが楽しめることをできたらなって。
― 名古屋から全国へ。これからも、HOMEさんのプロダクトを通して見える世界を楽しみにしております!最後に、名古屋でよくいくところを教えてください。
マユミ:『KAKUOZAN LARDER』!私たちにとって、まるで故郷のような場所です。ここで、店主のお二人に出会い、さまざまなことを学びました。名古屋にいながらでも広い世界に向けて発信できるってことも、お二人と出会って感じることができました。定期的に訪れる場所で、常に情報交換をしながら、新しいアイデアや刺激をもらっています。
ション:僕も『KAKUOZAN LARDER』はもちろん大好きですが、やっぱり北区ですかね。生まれ育った街でもありますし、北区は、田舎と都会のバランスが絶妙で、のびのびと暮らせる感じがします。熱い想いを持ちながらも、ギスギスせず、マイペースにいられる場所がですね。結局、地元がいいんですよね(笑)
HOME ECONOMICS EXPERIENCE
◎Instagram
→「PEOPLE」掲載リスト一覧を見る
Text:Hiyori Sakakibara(THE SOCIAL)
Photo:Eri Yamamoto(THE SOCIAL)
- 2025年4月
- 2025年3月
- 2025年2月
- 2025年1月
- 2024年12月
- 2024年11月
- 2024年10月
- 2024年9月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年5月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年9月
- 2021年6月
- 2021年3月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年6月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年3月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2012年10月
- 2012年9月
- 2012年8月
- 1900年4月
- 1800年3月
- 1700年4月
- 1600年3月